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Hilfe, ich bin ein Junge! 助けて、私 男の子よ!

ドイツ映画 (2002)

登場人物の “入れ替わり” の面白さを最大限に生かしたファミリー映画。邦題をどうするかで悩んだ。最初に観た時に付けた題は、ミッキーの立場から考えた『助けて、僕 男の子だよ!』。しかし、今回、紹介するにあたり、この映画の主人公がエマであることを考え、『助けて、私 男の子よ!』と変更した。ただ、これだと、男の子であることを肯定する意味と、否定する意味のどちらにも受け取れるが、原題がそうなので、敢えてそのままとした〔『助けて、私 男の子になっちゃった!』というのが、正確な日本語〕。この映画の主題の “入れ替わり” だが、親子間や、青年と老人の入れ替わりの映画はあるが、11歳の少年と少女が入れ替わるというのは 他に観たことがない(例えば、2016年の『The Swap(ザ・スイッチ)』で入れ替わるのは16歳の高校生の男女)。小学生が異性を演じるのにはかなりの演技力を要するので、11歳が限界なのであろう。この映画で入れ替わるのは、成績はオールA、スポーツでは将来のオリンピック選手と嘱望されるスイマーのエマという少女と、何をやっても落ちこぼれのガキ大将、ただし 絵は抜群に上手なのだが誰もそれを知らないという日陰の存在のミッキーという少年。2人が仇同士という設定が面白い。2人は、お互いどこに住んでいるかすら知らない。それなのに、朝起きてみると、見知らぬ家で、女の子は男に、男の子は女になっている。外に出ようにも、着る服は、その子の部屋にある服しかない。これほど困ったシチュエーションも珍しい。ただ、ドイツ語の場合、話し言葉で男女差はないので、日本語のように、女の子が男の子のように話す時の違和感はない。訳するにあたっては、男女差は意識せざるを得ないので、ドイツ人がドイツ語で見ているよりは、2人の違いがより鮮明になっている。使用したDVDはドイツ製の正規版だが、画像が画面の中央にしかないタイプなので、解像度が低く全体にボケている。字幕はドイツ語しか入っていないので、それをそのまま使用した。

ハンブルクに住む11歳のエマとミッキーとフィアオーガは同じクラスに在籍しているが、仲のいいのは、エマとフィアオーガ。エマはオールAの秀才の女の子。水泳でも抜群の成績を上げ、水泳教室で専用のコーチがついて特訓を受けている。フィアオーガは魔術が大好きな根暗な男子生徒で、廃工場の中に隠れ家を持っていて、その中にいろいろなものを収集している。この2人が仲がいいのは、クラスメイトが2つに分かれて戦っている “中世の騎士ごっこ” で、お姫様と魔法使いとして同じグループに属しているから。もう一方の敵の大将、暗黒卿になっているのがミッキー。勉強の方は、何をやってもダメで、教師からは見捨てられている。ミッキーが、成績のいいエマに何かと ちょっかいを出すので、エマはミッキーが大嫌い。つまり、実生活でも、“ごっこ” の中でも敵なのだ。そんなある日、エマの将来を決める地区選手権のある週、いつものように “ごっご” をした後で、フィアオーガは湖畔の大木に古いコートがかけてあるのを見て盗む。このコートは、実は、ドイツを代表する魔法使いタルトフ一族の末裔の持ち物だった。そして、コートの中には呪文の本が入っていた。古代ルーン文字で書かれた呪文の1つをフィアオーガは解読し、それをエマに教えてしまう。そして、その夜、ベッドの中で、エマは深く考えずに呪文を口ずさみ、その後、憎たらしいミッキーを思い出して、「バカなミッキーめ」と言ってしまう。しかし、その呪文は、2人の人間を入れ替える呪文で、ミッキーの名を出したことで、翌朝起きた時、エマはミッキーの体の中に、何の罪もないミッキーはエマの体の中に入っていた。2人は、起きてしばらくして、変だということに気付き、あまりのことに気絶する。映画は、54時間というタイムリミットの中で、2人がどうやって元に戻るかのハラハラドキドキを上手に描く。仇役になるのは、エマの水泳のライバルのミシェル。徹底的に邪魔をして、2人が “入れ替え” できないようにしようとする。コートを盗まれた魔法使いのアルバート・タルトフは、フィアオーガの中に自分の後継者となり得る才能を感じ、“入れ替え” できるように手伝う。しかし、問題は、エマの体に入ったミッキーが、水泳が全然ダメなこと。それでも、再び入れ替わるためには、地区の選手権で優勝しないといけない。入れ替わった後も反発し合っていた2人が協力した時、初めてタルトフの魔法が効く。そして、フィアオーガはタルトフの後継者となる。

ミッキー役は、ニック・サイデンステッカー(Nick Seidensticker)。詳しいことは何も分からない。TV映画の端役に2回出ただけで、この映画の主役の座を射止め、映画界から消えていった。この映画の真の主役はエマだが、そのエマが “入れ替わり” で中に入るのがミッキーの体。映画の8割は “入れ替わり” 後の姿なので、主役は、エマが中に入ったミッキーになる。だから、役柄上の主役はエマ、演技上の主役はニックという変わった構成となる。エマは派手な色の服装が好きなので、エマが入った後のミッキーも、それしか着るものがないせいもあり、女の子のような服を着るようになる。話し方も、うっかりすると女の子みたいになるので、なかなか難しい役どころだ。一方、ミッキーが入るエマを演じているのは、サラ・ハンネマン(Sarah Hannemann)という女の子。ミッキーの服を着て、長い髪を隠すと、男の子のように見える。サラは、これが映画初出演なのに、芸達者なところを見せる。

あらすじ

ハンブルク郊外の森の中で、11歳の子供たちが二手に分かれて “中世の騎士ごっこ” をしている。1人だけ女性で加わっているのは、エマ。母は、昔、ドイツのマラソンの選手として名を馳せたが、オリンピックには出場できなかった。そのためか、飛び抜けた水泳の才能を持っている娘に期待するところ大で、水泳のコーチも、エマが将来オリンピックに出れば、自分も有名になるという下心でいっぱい。そのエマは、“ごっこ” では お姫様役になっている。そのグループには、「四ツ目」という意味のフィアオーガ〔Vierauge〕という小太りの子がいて、魔法使い役。それに敵対する軍隊のトップが暗黒卿〔dunklen Herrscher〕。やっているのは、エマと仲の悪いミッキーという少年(1枚目の写真)。学業成績は最悪だが、絵を描くのが抜群に上手い。しかし、そのことは誰も知らない。両軍は、湖に入って戦うが、そのさなか、エマの携帯に母から電話が入る。「エマ、どこにいるの?」。「森の中。暗黒時代の戦争…」(2枚目の写真、矢印は携帯)。「今、水泳のコーチから電話があって、怒ってらしたわ。今日は、特訓の日だそうね」。「いけない、そうだった」。「特訓が終わったら、レニーを保育所から連れ帰ってもらえる?」。「いいわ」。電話が終わると、それをじっと待っていた全員の中で、ミッキーが、「何だよ、行くのか?」と詰問する。「水泳の特訓なのよ」。フィアオーガは、「一度くらい、パスできないのか? 今、ちょうどいいトコじゃないか」と、仲間だが批判する。「ダメよ。選手権大会が今週の日曜なの」。ミッキーは、「お姫様がいなくて、どうやって続けられる!」と怒る(3枚目の写真)。「お姫様になれば?」。「アホくさ。僕に、お姫様になれってか?」。「例えばよ」。「オールAのお嬢さんはお忙しくていらっしゃる」。「ミッキー、あなた、何をやってもダメだから妬いてるんでしょ」。「黙れ、カエル脚!」。「バカ!」。2人の仲は、いつも最悪。エマが去った後、フィアオーガが、「お姫様なしでやろうよ」と とりなすが、ミッキーは、「こんなガキの遊び、やってられるか」と言い、仲間を連れて立ち去る。
  
  
  

誰もいなくなった湖畔で、1人の老人が、小舟に乗った幻の人物に向かって、「ヘレナ、まだ彼が見つからない」と呼びかける〔“彼” とは、自分の後継者のこと〕。エマは、お姫様の衣装のままでプールに駆け付ける。コーチは30分も待たされたと文句を言いかけ、エマの衣装に気付くと、水泳の練習はお互いの密接な協力があってこそなのに、遊んでいるとは何事だと叱る。湖畔では、老人が1匹のカメを地面に置く。カメの名前はメセス・ファウリ〔「怠け者」という意味〕。プールでは、エマのタイムを見て、コーチは、「悪くない。だが、良くもない」と、不満げ。エマの腕に端子を付け、パソコンにつないで数値を調べると、「今日は、ちょっと高いな。昨日の夕食に何を食べた?」と訊く。そこに、一番のライバルがやってきて、「また、冴えない結果? もう、あきらめたら?」と “口撃” する(1枚目の写真)。コーチは、直接彼女に注意せず、エマに、「彼女に構えな。2人で集中しよう」と言うだけ。湖畔では、カメがいなくなったので、老人は、コートを残したまま捜しに行く。一方、ミッキーは、兜、盾を両手に持ち、剣を背中に付けた出で立ちで家に帰ってくる。家の外ではタクシーの運転手をしている “売れない画家” の父が、意味も分からず車の整備をしている。やり方を間違え、顔に油が飛ぶ。ミッキーは、「やあ、パパ」と声をかける(2枚目の写真)。「車、また故障したの?」。「ああ、多分ヘッドガスケットのせいだ」。「なら、なぜオイルを止めないの」〔ミッキーの方が車には詳しい〕。「せっかくだから、オイルも交換してるんだ」〔弁解〕。自分の部屋に戻ったミッキーは、自分の描いた絵を両親に見てもらおうと、スケッチブックを手にもって部屋から出てくるが(3枚目の写真、矢印)、10年間一度も売れない絵を描き続け、タクシーで稼いでいる夫と、歌を歌うのが好きだが、それではお金にならない妻の間で口論が始まり、機会を与えてもらえない。
  
  
  

湖畔では、全員が帰宅したのに、なぜかフィアオーガが一人残っていて、老人が置いていったコートを見つける。コートの裏に、如何にも魔法使いの好きそうな飾りが付いていたので、平気で盗んでいく(1枚目の写真、矢印はコート)〔フィアオーガの役は、ミッキーとエマに次ぐ重要な役だが、彼を演じるPhilipp Blankを紹介の対象としなかった理由は、この “平気で盗む” という態度が気に食わなかったためと、顔がブスで演技が下手なため〕。一方、エマは、母に頼まれた通り、弟のレニーを保育所まで迎えに行き、家に連れて帰る。途中で、クラスメイトに映画に誘われ、「時間がない」と断ったため、「今に指に水かきが生えてくるわ」と陰口を叩かれる。湖畔では、カメを捜し当てた老人がコートの所に戻ってくると、消えてなくなっている。老人は、カメに向かって、「わしは、ここにコートを置いてかなかったか?」と尋ねる(2枚目の写真、矢印はカメ)〔このカメは、魔力を持っていて、所有者に重要な指示を与える能力を持っている〕。結局、コートは見つからず、老人は、「おお、偉大なるマーリンよ」と嘆くので、この老人がマーリンの末裔である可能性を示唆している〔この老人は126歳になる魔法使いのアルバート・タルトフ〕。この場面の後に、自宅に着いたエマとレニーのシーンがある(3枚目の写真)。それ自身には何の重要性もないシーンだが、2人のツーショットは、変身後の、元エマとレニーのシーンとの対比に役立つと思い、添付した。タルトフは、居住している平底船に戻ると、コート、特に、中に入っている呪文の本が悪用されないかを心配する。しかも、その呪文の本がないと、タルトフは魔法も使えない。そのような大切なものを放置しておいたタルトフにも責任がある。一方、コートを盗んだフィアオーガは、廃工場の隠れ家に行き、コートの中に、使い込まれた古い本が入っているのに気付く。中に書いてあるのは、古代のルーン文字だ。フィアオーガは、魔法使いを自認しているだけあって、古代ルーン文字の辞書も持っている。一部を読んだフィアオーガは、「月の魔法〔Magia lunaris〕で3オンス〔85グラム〕。カラスの脚か。人間に対する魔法には、熟練した魔術師がいないとダメ!」とがっかりする。夜になり、エマが日記に、次の選抜で勝てばママも喜ぶと書いていると、コーチがやってきて、母に盛んに媚びを売る。コーチの願望は、エマが優勝して、自分の名が売れること。そこで、選抜に勝つことの重要性を強調して来たのだ〔母に気があるようにも見えるが、定かではない〕
  
  
  

翌朝、フィアオーガは学校に魔法の本を持っていく。授業中にもっと訳すためだ。エマに、「お早う」と声をかけられたフィアオーガは、急いで本を閉じる(1枚目の写真、矢印)。「何を読んでたの?」。「別に」。授業が始まると、ミッキー達のクラスは、数学の試験。当然、ミッキーは、まるで分らない。エマと席が隣同士のフィアオーガは、試験勉強をし忘れたので、何とか助けてよと、身振りでエマに頼み込む。教師は、何も書いていないミッキーに、「勉強を忘れたの?」と声をかける。ミッキーは何も答えない。教師は全員に向かって、「幾何学は数学の柱の一つよ。そして、数学がないとコンピューターもない。そのコンピューターがないと、プレイステーションやゲームボーイもないのよ」と言い〔1人の生徒が机の上にどちらかを出していた〕、幾何学の重要性について話す。その間に、エマはフィアオーガのために、答えを書いた(?)紙を床に落とし、靴でフィアオーガの方に押しやる。ミッキーは、エマの後ろの席なので、2人のやり取りに気付き、2人の机の間にある通路の真ん中の “紙” の上に、自分の筆箱を落とす。そして、席から堂々と立ち上がると、筆箱と一緒にその下の紙も回収する。しかし、ミッキーが筆箱を机の上に置くや否や、教師がすぐに筆箱を取り上げ、“紙” も取り上げる。そして、「カンニングは許しませんよ、ミッキー」と言うと、答案用紙に何か書き込む。「でも、これ、僕のじゃないよ。エマのだ」。教師は、「いいこと、こんな紙なんか要らない生徒〔エマのこと〕がいる反面… 不始末で落第する生徒〔ミッキーのこと〕もいるのよね」と、意地悪く言う(2枚目の写真、矢印は “紙” )。試験が終わってエマとフィアオーガが一緒に出てくる。フィアオーガは、「魔法が使えたら、カール先生なんかヒキガエルに変えてやるのに。それとも、みっともない意地悪な生徒がいいかな」とエマに話す。そして、一緒に階段に座ると、「『月の魔法の入れ替わり、他の者になれ〔Magia lunaris mutanter, sei ein anderer〕!』と言えばいいんだ。そしたら、先生は クラス中の笑い者になる」と教える。「『月の魔法』の後なに?」。『月の魔法の入れ替わり、他の者になれ』だよ。入れ替わり呪文だ。気に入った?」。「何か、ややこしそうね?」。そこに、ミッキーを真ん中にした3人組がやってきて、「今に思い知らせてやる、魚ヅラ〔エマのこと〕め、絶対だ」と恨みをぶつける。エマは、「カンニングでつかまったのは、私のせいじゃないわ」と正論を言うが、通じない。フィアオーガの、「僕宛の紙を盗むからだ」という変な援護は、「誰がお前に話しかけた、この魔法使いオタク?」と一蹴される(3枚目の写真)。
  
  
  

その夜、ベッドでエマは日記に書いている。「ミッキーって、ホントに嫌な奴。なぜ、私を放っといてくれないの?」(1枚目の写真)「もしフィアオーガの変身呪文がホントに効いたらサイコーね。しばらく他人になれるなんて」。ここまで書くと、エマはペンを置き、日記を閉じて枕の下に隠す。そして、仰向けに寝ると、イルカの縫ぐるみを抱きしめ、「『月の魔法の入れ替わり』。その後、なんだったっけ。そうそう、『月の魔法の入れ替わり、他の者になれ』だった。おバカなミッキー」と言って、眠りにつく。一方、ミッキーは、ベッドの上で最後まで絵を描いていると、布団を半分かけて眠ってしまう(2枚目の写真)。ミッキーの絵のアルバムに風が当たり、エマを描いたページが表になる〔ミッキーがエマを描いたということは、心の底では好きだということを意味している〕。そして、エマの部屋に飾ってあった3つのメダルが光り始める(3枚目の写真)。
  
  
  

雷鳴とともに、ベッドで寝ているエマの顔の周りに魔法の光が煌めき、エマがミッキーに変わる(1・2枚目の写真)。同様に、ミッキーの顔の周りにも魔法の光が煌めき、ミッキーがエマに変わる(3・4枚目の写真)。ただ、『Freaky Friday』や『Vice Versa』では、それが同じ家の中で起きたから問題は生じなかったが、エマの家のベッドで寝ていたエマは、心はエマのまま外見はミッキーになり、ミッキーの家のベッドで寝ていたミッキーは、心はミッキーのまま外見はエマとなった。つまり、外見上は、遠く離れた他人の家のベッドで寝ていることになる。ここが、他の “入れ替わり” 映画と違って面白いところ。
  
  
  
  

翌朝、まず、エマの顔と体になった元ミッキーが、いつものように目覚ましで目が覚める。「ひどい、夢だったな」と言い、目覚ましを乱暴に叩いて音を止める(1枚目の写真)。そして、ベッドの下のラジカセのスイッチを入れ、部屋を陽気な音楽で満たす。次に、ミッキーの顔と体になった元エマが、イルカの縫ぐるみを持ったまま、欠伸をする(2枚目の写真)。「何て変な夢だったのかしら」。元ミッキーは、すぐにトイレに行き、たったままおしっこをしようとするが、うまくいかない。変だと思ってパンティの中を覗く(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

一方、元エマは、レニーの部屋を通ってトイレに向かう。「お早う、レニー」。レニーは、見たこともない少年が、シミーズ姿で自分の部屋を通っていくので、びっくりする(1枚目の写真)。元エマは、イルカを抱いたまま、右手でブラシを取って長い髪を梳こうとするが、ブラシは髪に当たらず、シミーズにぶつかって止まる。変だなと思って鏡を見ると、そこにはミッキーの顔が(2枚目の写真)。「まだ夢が続いてる。きっとそうよ」。しかし、もう一度見ても、やはりミッキー。元エマは気絶する。パンティの中を見た後、すぐ横の姿見でエマの姿を見た元ミッキーも(3枚目の写真)、気絶する。
  
  
  

元ミッキーは、「起きて。パパ、恐ろしいことが起きた」と声をかけるが、「何時だ?」と訊かれ、「7時半を少し過ぎたトコ」と答えると、「4時まで起きてたんだ」と、話を聞く気はゼロ。「お願い、ママ」。「誰か死んだのか?」〔母は起きもしない〕。「そうじゃないけど…」。「なら、話は後だ」。元ミッキーが絶望して去った後、父は、半分寝ている妻に、「声が変じゃなかったか?」と言う。一方、元エマは、今の体には合わないジーンズを無理してはく(1枚目の写真)。シャツは、女性用のシャツしか置いてないので、それを着るしかない。元エマが向かった先は、フィアオーガのアパート。人に見つからないよう、階段の下に隠れていて、建物の入口から出てきたフィアオーガの脚を引っ張る。フィアオーガは、ミッキーだと思っているので、「脅かすなよ、ミッキー」と つれない。「こんなトコで、何してる?」。「ミッキーじゃない。私よ。エマなの!」。「お笑いだ。別の奴に当たれよ」。「待って。ウソみたいに聞こえるけど、私、エマなの」(2枚目の写真)「ミッキーの体の中に入っちゃった。これって、全部、あなたのバカげた呪文のせいじゃない? 『月の魔法』の何とかの」。「呪文を知ってるの?」。「だから、言ってるのでしょ。昨日、教えてくれたじゃない。昨夜、ミッキーのことを口にしたら、起きたら、ミッキーになってた!」。「何だって?」。「私を見てご覧なさいよ。ミッキーが、好き好んで私の服を着ると思うの?」〔赤い帽子は、以前、同じものをエマがかぶっていた。エマのジーンズの上着をはおっていないのは、小さ過ぎて着れなかったから〕。ようやく、フィアオーガも納得する。「君、ミッキーそっくりだね」。「助けてくれなくちゃ。逆呪文を見つけるのよ」。「まず、ミッキーのトコに行ってみよう」。「なぜよ」。「彼だって困ってる」。ミッキーの家の風変わりな玄関のベルを鳴らすと、エマの姿の元ミッキーが顔を出す。元ミッキーと元エマは、顔を合わせてもう一度びっくり(3枚目の写真)。
  
  
  

元ミッキー:「信じられないや。いったい何が起きてんのか、誰か話してくれよ」。元エマ:「もう一度、整理しましょ」(1枚目の写真、矢印は魔法の本。左端が元ミッキー。着るものがないので、ミッキーの服を着ている)「あなたが、『月の魔法の入れ替わり』の呪文を考えたんじゃないのね?」(2枚目の写真)。フィアオーガ:「この古い本の中で見つけたんだ。こんな呪文、使っちゃ良くないと思ったけど、まさか本物だとは思わなかったから」。元ミッキーが、「呪文だって? そんなバカな話、聞いたこともない」と言ってフィアオーガから本を奪って中を見ようとすると、いきなり本から電光が走る。元ミッキー:「あれ何なんだ?」。フィアオーガ:「僕らにできることは、呪文をくり返してみること。元に戻るかもね」。元エマ:「論理的ね」。フィアオーガ:「今すぐ、試してみないと」。元ミッキー:「僕も そう思う」。フィアオーガは “エマ” に、「君は、最初に呪文を唱え、それからミッキーの名前を言った?」と訊く。元エマ:「そうよ。『おバカなミッキー』って言ったわ」。元ミッキーは呆れる。フィアオーガは、2人をミッキーのベッドに並んで寝かせる。フィアオーガが、「月の魔法の入れ替わり、他の者になれ。君はもう一度エマに、君はミッキーに」と唱える。2人は自分達が変わっていないのでがっかり(3枚目の写真)。フィアオーガは、魔法杖を持ってやり直したり、呪文の後の言葉を変えたりして試みるが全く効かない。そのあと、本を見て、「ここに、元に戻すことについて、何か書いてある。すぐ訳さないと」。最初の言葉で色めき立った2人は、あとの言葉でがっかり。
  
  
  

元はと言えば、“エマ” が変な呪文を唱えたのが悪いので、元ミッキーは元エマに襲いかかろうとするが(1枚目の写真)、その時、部屋のドアが開き、父が「いったいどうなってる?」と訊く。いつもは “ミッキー” しかいない部屋に、ミッキーの服を着た女の子がベッドの上で息子と取っ組み合いをし、他に見かけない男の子もいるから、当然の疑問だろう。元ミッキーは、いつもの調子で「僕たち ちょっと…」と言いかけ、本来、自分が口をきくべきじゃないと気付く。それに気付いた元エマが、「数学の宿題を」と、如何にも彼女らしい言い訳で回避する。父:「ベッドでゴロ寝してか? 今、何時だと思ってる? 学校に遅れるぞ。車で送ってやる」。元ミッキーは「送らなくていいよ…」と言いかけ、「ええと、つまり、送ってもらわなくて結構です」と言い直す(2枚目の写真)。元エマが「今日は、授業がないの」と付け加えると、父は「そいつは、いつもお前は学校をサボりたい時に使う言い訳だ。着替えんのか? バカげた格好だぞ」〔結局、着替えない〕 。父は、煙の出るタクシーで3人を学校まで送る。3人が降りたあと、父は、「今朝のあれは、いったい何だったんだ?」と声をかけるが、振り向いたのは “エマ” の姿の元ミッキー。“彼女” は、無視して歩いていく “ミッキー” の姿の元エマを呼び止め、“父” に返事をさせる。「今朝? そう? 別に… 何も」。逆に、元ミッキーは、「それって、絶対ヘッドガスケットのせい」と声をかけ、“父” をびっくりさせる。学校の中に入ると、フィアオーガは、「いいか、訳し終えるまで、口をきくな。注意を引くんじゃない」と、元ミッキーに注意する。元エマ:「他に、いい案ある?」。元ミッキー:「あるかよ。専門家な訳ないだろ… 起きたら女の子になってたなんて」。元エマ:「あなただけじゃないのよ。私だって、こんな汗まみれで、締まりのない、気持ち悪い体に入ってるんだから」(3枚目の写真)「最悪なのは、もしこれがすぐ解決しなかったら、あなたが泳ぐことになるのよ。そしたら、私のスイマーのキャリアはもう終わり」。元ミッキー:「僕なら 泳ぐもんか。オリンピックにも出たくない」。元エマ:「泳ぐことが、なぜ悪いのよ」。元ミッキー:「すべてさ。君がしてることといったら、練習また練習じゃないか」。一方、タルトフはカメの助けを借りて、魔法の本が小学校にあることを知り、建物の中に入っていく。
  
  
  

元ミッキーは、教室に入っていくと、いつもの癖で、仲間の所に寄って行き、「やあ、アティア」と言って、タッチの手を差し出す。今日のエマは、いつもと違い長い髪をキャップで隠し、服もエマらしくないのだが、アティアは、「何だ、カエル脚? 何の用だ?」とすげない。それでも、元ミッキーは、「おい、アティア、僕だ、ミッキーだよ」と言って、アティアの隣に座る。そこに、如何にもエマらしい服装の元エマが入ってくる。それでも、顔はミッキーなので、アティアは、「やあ、ミッキー」と手を上げる。「金魚〔エマのこと〕の奴、今日は、どうかしてる」。それを聞いた元エマは、「何てバカなの」と独り言。アティアは、元ミッキーに、「おい、エマ、頭ン中に水でも入っちまったんか?」と訊く(1枚目の写真)。そこに、元エマが来て、「おい、魚ヅラ、出てけよ、そこは僕の席だ」と、“ミッキー” のように話しかける。元ミッキーは、渋々立つと、“エマ” の席に、ふてくされた顔で座る。一方、フィアオーガは席に座ると、すぐに翻訳を始める(2枚目の写真)。そこに教師が入ってくる。アティアは、「おい、ミッキー、変な服だな」と言い、“エマ” の席の前に座っている女の子は、「エマ、それ、新しいファッション?」と訊く。「余計なお世話」。教師は、“エマ” に、昨日のテストを、「よくできたわね」と言って返却する。元ミッキーは、その点を見てびっくりする。教師が “ミッキー” にかけた言葉は、「相変わらずね、ミッキー」。腕を組んで嬉しそうな顔の元ミッキーに向かって、元エマはアッカンベーをする(3枚目の写真)。
  
  
  

教師が用事で席を外す間、代理の男性教諭が入ってきて、英語の授業を始める。教師は、「エマ、読んでくれるか? 君は上手だから」と当てる。それを聞いた元エマは、最初、自分が当たったと思い、誇らし気に顔を上げ(1枚目の写真)、すぐに、そうじゃなかったと気付く〔一瞬の表情が面白い〕。困ったのは、元ミッキーの “エマ”。彼は、数学もダメなら、英語もダメ。たどたどしく「Lisbeth went...in the beautiful」まで読むが、その後の「backyard」が読めない。教師が助けると、元エマが、「シュナイダー先生、こんなの間違いです」と英語で止めさせようとするが、「ミッキー、黙って。続けて」。元ミッキーは、“エマ” が恥をかくのが楽しくて、ニヤニヤしながら、ひどい発音を続ける。「backyard. There she found the...」。元エマは、自分の評価が地に落ち、恥ずかしくなって顔を隠す。ここで、カメラはフィアオーガを映す。「魔法使いは54時間以内に解除の呪文をかけないと、被験者は永遠に別の体の中に留め置かれる」。それは危機的な内容だった。その時、タルトフとカメは、遂に 魔法の本を持ったフィアオーガのいる教室の前にやってくる。教室の中では、今度は、アティアが手を上げ、「今日のエマはイカレテるんです。クレイジーなんです」と言い、それを聞いた元ミッキーは、してやったりとばかりに “エマ” を見る(2枚目の写真)。それを見た元エマは、被っていた赤い帽子を元ミッキーに投げつける。元ミッキーは怒って立ち上がると、「何しやがる、このアバズレ!」と言い、元エマが怒って飛びかかる。小さいが鍛えられた女子の体に入った男の子が強いか、大きいがなまくらな男子の体に入った女の子が強いか、結果は互角。2人は取っ組み合いを続ける(3枚目の写真)。
  
  
  

廊下にいたタルトフは特殊な魔法をかけ、照明を消し、雷鳴を轟かす。そして、強い風が吹いている教室に入り込むと、フィアオーガから魔法の本を奪い取る。フィアオーガは、「本を取られた!」と叫ぶと、驚いた2人は喧嘩をやめるが、タルトフは教室を既に出ていくところ(1枚目の写真、矢印はタルトフ)。3人は、授業などそっちのけでタルトフを追いかける(2枚目の写真、矢印はタルトフ)。しかし、タルトフは、「月の魔法の消去、わしを見えなくしろ〔Magia lunaris invisibar, mach mich unsichtbar〕」と呪文をかけ、姿を消す(3枚目の写真)〔すべての呪文は「月の魔法」で始まることになる〕
  
  
  

フィアオーガは、廃工場まで行くと、「もうちょっとで、訳せるトコだったのに」と悔しがる。その時、“エマ” が思い出す。「いけない。練習があるんだった」。元ミッキー:「練習かよ? 何、考えてんだ」。元エマは、プールサイドで待っているコーチに携帯電話をかける。「ホップさんですか?」。「もしもし、誰だ?」(1枚目の写真、元ミッキーが風船ガムを膨らませている)。声が違うので、元エマは、元ミッキーに携帯を押し付ける。元ミッキー:「何、させんだよ?」。「キャンセルしないと。私の声で」。「もしもし、今日は、ええと…」。「ホップ」。「ホップさん。あの…」。元ミッキー必死に理由を考える(2枚目の写真)。「家族が1人死にました。だから、午後の練習には出られません。いいですか」。「もちろんだとも、エマ。具合が悪そうじゃないか… 君やご家族のために何かしてあげられたらいいんだが… 何かあったら知らせてくれ」。元ミッキーは携帯を返す。元エマは、「死んじゃった? もっと まともな理由、思いつかなかったの?」と責める。「うまくいったじゃないか。それに、男の子としちゃ、死んだも同じだろ」。ここで、フィアオーガは2人の口論に割り込む。「話を聞いてくれよ。問題が起きたんだ。本には、こう書いてあった。54時間以内に呪文を解除しないと、君らは永遠にその体にいなくちゃいけない」。2人は、「何だって?!」と顔を見合わせる(3枚目の写真)。
  
  
  

フィアオーガ:「君らは、昨夜 入れ替わったろ。てことは、54マイナス8だから、46時間のうちに、魔法使いを見つけないと」。元ミッキー:「奴は危険人物じゃないんか? 君が本を盗んだことに腹を立ててるに決まってるぞ」。フィアオーガ:「僕は、いい人だと思う。きっと助けてくれるよ」。元ミッキーは、「フィアオーガ、悪いが、一発お見舞いするぞ」と言い、いきなりフィアオーガの頬を殴る。弾みでフィアオーガが転落しかけ、2人で慌てて手を取って落ちないようにする。3人は、そのまま壁にへたり込む。怒ったフィアオーガは、元ミッキーに向かって、「エマのためじゃなかったら、君が元通りになれなくても、ちっとも気にしないからな」と捨て台詞(1枚目の写真)。元エマは、「ミッキー、私たち、もっと仲良くしないと」とアドバイス。元ミッキーは、「じゃあ、次の手は?」と尋ねる。元エマは、「フィアオーガ、あなた、魔法使いをよく見た?」と訊き、似顔絵を描かせる。しかし、あまりの下手さに、元ミッキーが見かねて手を加えると、タルトフそっくりの絵が完成する(2枚目の写真)。元エマは、「あなたが、こんなに絵が上手だなんて」と驚く。「僕だって、完全なダメ人間じゃないのさ」。3人は、タルトフの似顔絵の上に「尋ね人」、下に、「心当たりの方は」として、連絡先の電話番号を入れ、大量にコピーする。3人は、それを配布したり、いろいろな物に貼り付けたりする。フィアオーガ:「もう十分かも」。元ミッキー:「次は、どうする?」。「家に帰って、何事もなかったように振る舞う」。「何事もなかったように?」。元ミッキーはそう言うと、元エマを向き、「女の子みたいな真似するなよ」と言う。元エマの方は、「あなたこそ、その態度を変えないと。レニーには優しくね。明日は水泳の練習に行かないで」と釘を刺す(3枚目の写真)。「心配するな。絶対行くもんか」。2人が去ってフィアオーガ1人になると、“エマ” の後をつけてきたライバルの女の子がエマと似顔絵の関係について尋ねる。フィアオーガは、口を濁していたが、最後に、「僕に言えるのは、この人が見つかった時、エマは元通りになるってこと」と余分なことまで言ってしまう(4枚目の写真)。お陰で、この “ライバルを潰すことしか眼中にない汚い女の子” は、3人の見張りを続けることに。
  
  
  
  

家に帰った元エマは、父から “学校を逃げ出した” 理由を訊かれ、緊急事態だったからと言って誤魔化し、部屋に閉じ籠る。元ミッキーは、初めて “エマ” のアパートに入るので、ドキドキ。入口に、“ミッキー” の悪友の1人が待ち構えていて、花束を贈られ、口にキスされ、「失せろ、このバカ」と言って、頬を引っ叩く。中に入ると母から “学校を逃げ出した” 理由を訊かれ、“逃げた” というのは誤解で、“学校を出た” のは状況の変化によるものと答え、部屋で宿題をすると言って解放される。しかし、どこに “エマ” の部屋があるか分からずにウロウロ。元ミッキーは、恐らく母の命令で、“エマ” らしい長い髪にさせられ、夕食のテーブルに着く。出された食事は、体重コントロールのため、生野菜だけ(1枚目の写真、矢印はセロリとニンジン)。一方、元エマは、冷蔵庫に入っていたチョコレート・クリームのビンを、“ミッキー” の母と2人で舐め合い、これまで味わったことのない幸福感に浸る(2枚目の写真)。元ミッキーは、絵が上手な特技を生かし、弟のレニーのためにヨーダの絵を描いてやり、すごく喜ばれる(3枚目の写真)。そして、元エマは、これまでと違い、母と一緒にピアノを弾いて気に入られる(4枚目の写真)。
  
  
  
  

ただし、元ミッキーが、イルカの縫ぐるみをエレキギターのように持って、ベッドの上で踊り狂っていて “エマ” の母に叱られたり、元エマが、立ったまま小便することに抵抗を感じたりする場面もある(1枚目の写真)。夜になって、元ミッキーは、枕の下から “エマ” の日記を見つける(2枚目の写真)。元ミッキーが、どこを読んだのかは分からない。場面はすぐに切り替わり、男の子なのに、ピンクのバスタオルで体を包んだ元エマが、“ミッキー” のベッドに腰を下ろす。背後に元エマの独白が流れる。「私は今、ミッキーの締まりのない体の中にいる。すぐに救いはない。悪夢だわ。でも、ミッキーの家みたいに自由で楽しい思いをしたの、いったいいつだったかしら? それに、びっくりするような物まで見つけちゃった」。彼女は、ベッドの下に置いてあったミッキーのスケッチブックを見つけ、中を開いて、その中の1枚に自分が描いてあるのを見つける(3枚目の写真)。ミッキーは、彼女を嫌っているのではなかった。一方、エマのアパートには、コーチが花束を持って現れる。「家族が1人死にました」とミッキーが言ったので、哀悼の意を表しに来たのだ。当然、誰も死んでいないことが分かるが、母は、それをエマが受けているプレッシャーのせいだと勝手に解釈する。
  
  
  

フィアオーガは、授業中にタルトフが教室に侵入し、魔法の本を奪っていった件で、担任の教師に警察に連れて行かれる。彼は、盗まれたのではなく、借りたものを取り返されただけだと訴える。しかし、教師は、それならなぜ、似顔絵を町中に貼り出したのかと詰め寄る。幸い、1人の警官が、その顔を見て、どこで見たか思い出す(1枚目の写真、矢印は似顔絵)。それは、蝋人形館の「神話と伝説」のコーナーで見た100年前の魔術師とされる人物だった。翌朝、元ミッキーは、魚の形をした目覚まし時計を止めようとして失敗し、ベッドから転がり落ちる(2枚目の写真)。「ひどい夢だった」と言い、現実に気付き、がっかりする。母が、ドアの外から、「急ぎなさい。また、練習に遅れるわよ」と催促する。それを聞いて、心は重くなる〔ミッキーは泳げない〕。一方、元エマは、“ミッキー” の乱れた髪に、きちんとカールをかけている。そこに、フィアオーガから電話が入る(3枚目の写真)。「有力な手がかりだ。蝋人形館で会おう」。「素敵。ミッキーに電話するわ」。
  
  
  

その頃、元ミッキーは、母に連れられ、プールまで来ていた。脱衣場まで来た元ミッキーは、母が強制した長い髪が嫌でたまらない。そして、いつもの癖で、「男性」と書かれたドアから中に入ってしまい(1枚目の写真)、すぐに追い出される。今度は、生まれて初めて「女性」と書かれたドアから中に入る。そこには、裸の女の子がいっぱいいて(2枚目の写真)、元ミッキーは思わず見とれる。その後、元ミッキーは、スタート台に立たされ、補助具のブルブイを脚で挟み、両手にスイムパドルをはめ、プールに飛び込む。元ミッキーは、泳げないので、落ちた所でバタバタするだけ。コーチが呆れて飛び込む。「何のつもりだ?」。「泳ごうと」。「君が、突然、どうなっちまったのかは知らん。だが、君のキャリアを こんな風に終わらせる訳にはいかん」(3枚目の写真)。“エマ” は、土曜丸1日の休養を許される〔試合は日曜日〕
  
  
  

元エマは、母の携帯に電話する。「もしもし、こちらミッキーです。エマと話したいんですが」(1枚目の写真)。「悪いわね、ミッキー。エマは、今、水泳の練習中なの。伝言しましょうか?」。「いえ、結構です」。元エマは、干してあった黄色の服をはおると、すぐにプールに駆け付ける。元エマは、迷うことなく「女性」と書かれたドアから中に入り、元ミッキーが入って来るのを待ち構えている。元ミッキーはすぐに入ってくる。「エマ、ここで何してるんだ? それに、僕の髪をどうしちゃったんだ?」。「練習にきちゃダメって言ったでしょ。全部、ぶち壊しにするつもり?」(2枚目の写真)。「ホップも水泳の練習もサイテーじゃないか」。「ひどいわ、なぜそんなこと言うの?」。「君は、ママを喜ばせるため、ママが叶わなかった “オリンピックに出る” という夢を果たすために泳いでるだけだ」。「そんなんじゃないわ」。「そうか? なら、ライプツィヒのスポーツ選手の全寮制学校で頑張れよ」。「スポーツ選手の全寮制学校? いったい何の話?」。「もし、明日勝てば、ホップは、来年、君をそこに入学させる。1日8時間練習だ。食事は、生野菜だけ」。「私、ここにいたいわ。ライプツィヒなんかで、何したらいいの? 明日の試合、絶対 勝つもんですか」。「おめでとう。じゃあ、僕の失敗にくよくよしなくて済むわけだ」。「全寮制の学校にミシェルなんかといるくらいなら、あなたと一緒にいる方がマシよ」(3枚目の写真)。「じゃあ、日記に僕のこといろいろ書いてたけど、変えたんだね」。この一言で、すべては一変する。秘密の日記を読まれたと知った元エマは、激怒し、「何ですって?」と言って、元ミッキーの頬を思いきり叩く。「このロクデナシ! もう何も信じないから」。「僕、少し読んだだけだ。水泳のトコ」。「もう終わりよ。あなたとは、二度と関わらないから。行くわよ。蝋人形館で会う約束なの」。この話を盗み聞きしていたミシェル〔ライバルの女の子〕も、こっそり後をつける。
  
  
  

蝋人形館の前では、フィアオーガがイライラしながら待っている。「あと28時間しか残ってない」。そして、2人の様子が変なので、「2人ともどうしたの?」と訊く。元エマ:「ミッキーに訊いたら?」。元ミッキー:「バカやったんだ」。フィアオーガは、似顔絵そっくりの蝋人形を見つける(1枚目の写真)。「コートまで、そっくりだ」。3人は説明文を読む(2・3枚目の写真)。解説板には、「アルバート・タルトフ。1877年生まれ、没年不詳。妻はヘレナ。1886年生まれ、1927年死亡。タルトフは、伝説の世界で最も輝いている。古代魔術の名家の末裔。後継者ができて初めて死ぬことができる。後継者には、一族の知識がすべて授与される」と書かれている。元エマは、「だけど、どうやってアルバート・タルトフを見つけるの?」と尋ねる。確かに、それが大問題だ。外に出た3人。突然、元エマが、「そうだ、いい考えがある」と言い出す。「付いて来て」。
  
  
  

元エマは、市役所に行くと、土曜閉庁だが、たまたま所用でやってきた職員を捕まえて、何とか中に入れてもらう。そして、アルバート・タルトフの現住所を訊き出そうと、泣き落としで迫る。「おじいちゃんは僕にはすごく意地悪なんですが、すごく年なんです」(1枚目の写真)「その上、癌ができちゃって、お医者さんはあと数日しか持たないと言うんです」。この幻の祖父とアルバート・タルトフは昔、すごく親しい友人同士だったので、死ぬ前に、一目会いたいと祖父が望んでいると、元エマは泣いて訴える(2枚目の写真)。可哀想に思った職員は、例外的な措置としてコンピューターで調べるが、ハンブルクで住民登録がされていないことが分かる。一方、フィアオーガは、途中でトイレに行きたいと言って席を立つと、こっそり、「1955年以前」と書かれた資料室に忍び込む。がっかりした2人と一緒に建物の外に出たフィアオーガは、資料室で見つけたタルトフの住所を書いた紙を見せる(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

その住所は、ハンブルクを流れるエルベ川に係留された桟橋だった。幸い、係留された船それぞれの郵便受けがあり、そこにタルトフのものもあった。タルトフが1954年以来住んでいたのは、平底の小型船だった。元エマは、窓から覗いで誰もいないと分かると、船室の扉を開ける。それを見た元ミッキーは、「何するんだ?」と言うが(1枚目の写真)、元エマは、「見てただけ。本は、きっとこの中のどこかにある」と、中に入るよう主張する。「バカ言うな。奴が戻って来たら どうする? 殺されちまうぞ」。「大口を叩くくせに、弱虫なんだ」。「死ぬよりマシだ」。元エマは、勝手に中に入っていく。元ミッキーも仕方なく付いていく。3人が本を探していると、桟橋を歩く音が聞こえ、すぐにタルトフが扉を開ける(2枚目の写真)。中に3人の子供がいることを知ったタルトフは、魔法をかけて扉を閉め、3人が出られないようにする(3枚目の写真)。
  
  
  

タルトフ:「わしの船で、何をしとる?」。元ミッキー:「お願い、痛いことしないで」。「最後にこの船に侵入した連中は、エルベ川の底に眠っとるぞ」。元エマ:「お願い、助けてよ。生きるか死ぬかの問題なの」(1枚目の写真)。フィアオーガ:「本のことなんです」。「本だと?」。元ミッキー:「そうさ。あんたの本は、たわごとでいっぱいだ。お陰で、僕は僕じゃなくなって、女の子になっちゃった」(2枚目の写真)。元エマ:「魔法の呪文のせいよ。入れ替わりの呪文。私が唱えたの。それで、私が男の子になって、ミッキーが私の体に」。フィアオーガ:「20時間しか残ってません」。「運が悪かったな。だが、お前たちが、勝手にしたことだ」。タルトフには助ける気などさらさらなかった。しかし、フィアオーガが棚に置いてあった水晶球に触ると、突然光り出す。それを見たタルトフは、フィアオーガが待ち望んでいた後継者かもしれないと思う。「お前が、森で本を見つけたんだな? コートも盗んだ」。フィアオーガは、返そうと思って持参したコートをタルトフに渡す。フィアオーガ:「僕、あなたに返すつもりでした。ホントです。だけど、中にすごいものが入ってたので…」(3枚目の写真)。「だが、秘密の文字で書かれていたのだぞ」。「暗号なんか、やる気になれば簡単に破れます」。フィアオーガが後継者であることを確信したタルトフは、呪文には、魔法の助けが要る。自ら獲得した金1個と銀2個のメダルじゃ」と教える。そう言われて、元エマは、自分がもらったメダルのことを思い出す。しかし、その話を、窓の外のミシェルも聞いていた(4枚目の写真)。
  
  
  
  

ミシェルは、即刻エマのアパートに行き、弟のレニーを “姉の親友” と騙して中に入り込むと、エマの部屋に飾ってあった金メダルを盗む(1枚目の写真、矢印)。タルトフと話していて少し遅れた “エマ” がアパートに戻ってみると、金メダルは盗まれた後だった(2枚目の写真)。元エマは、「レニー、私の…」と言いかけ、「お姉ちゃんの金メダルはどこ?」と訊き直す。「女の子が入ってきて、取ってったよ」。「どんな女の子?」。「変な髪形をしてガミガミ言うんだ。お姉ちゃんの水泳クラブの子だって」。これで、ようやくミシェルが犯人だと分かる。しかし、その頃には、ミシェルは、もう質屋にいた(3枚目の写真、矢印は金メダル)。「ブローチに加工しよう。だから、20ユーロしかあげられないな」。「いいわ。できるだけ早く溶かしてね」。因みに、フィアオーガは、後で使うことになると思い、残された2つの銀メダルをちゃんと回収していった。
  
  
  

3人+タルトフは、プール教室の女性用更衣室に直行し、ミシェルを待ち構える。ミシェルは、掃除用のモップで対抗しようとするが、タルトフはモップをアナコンダに変え、驚いたミシェルは気絶する。タルトフは、気絶したミシェルに “質問に答える” 魔法をかけるが、しぶといミシェルは、「メダルはどこだ?」の問いかけに、「絶対言わない」と拒絶。そこで、タルトフは、元エマを呼び、甘言で懐柔すれば口を割るかもしれないと、希望を託す(1枚目の写真)。そこで、元エマは、「あなたは、素晴らしいスイマーよ。一番だと思うわ。事実上、無敵よ。明日の試合には、きっと勝つわ」とまで話しかけ、ようやく、「レーゲ街24番の店で売った」との情報を得る。タルトフは、更衣室で起きたことを忘れる呪文をかけ、すぐに4人で質屋に向かう。夜で閉店していたが、魔法で簡単に中に入り、元ミッキーがメダルを発見する(2枚目の写真、矢印)。しかし、メダルは、ブローチにするため、鉛を混ぜて加工されていて、魔法には使えないことが分かる。元エマは、「このままずっと 男の子なんだわ」、元ミッキーは、「魚ヅラのまま一生か」と、打ちのめされる(3枚目の写真)。
  
  
  

しかし、万能のカメ、メセス・ファウリは、何事かタルトフに囁く〔カメは言葉が話せる〕。タルトフ:「別の可能性がある」。2人は、喜び勇んで立ち上がる。「他の金メダルを手に入れればいいんじゃ。ただし、名誉ある方法でな」。元エマ:「どうして すぐに言わなかったの?」(1枚目の写真)「でも、どうやったら、金メダルが手に入るかしら」。フィアオーガ:「知ってるよ。明日の試合だ。勝てば金メダルだ」。この言葉で、2人は意気消沈する。元エマ:「無理よ」。元ミッキー:「僕も そう思う」。「どうしてさ?」。元エマ:「もし、ミッキーが明日勝てば、私は、スポーツ選手の全寮制学校に行かされる」。元ミッキー:「そもそも、僕は泳げない」。「前向きに考えなきゃ」。かくして、日曜の早朝、元ミッキーは、元エマから、屋外プールで猛特訓を受ける。「私は技術を教えるから、あなたは意思の力で頑張って」。「だけど、平泳ぎとバタフライは無理だ」。「じゃあ、クロールにしましょ。金メダルは1個でいいから」。そう言うと、横に付きっきりで泳ぎ方を細かく指導する(2枚目の写真)。元ミッキーは、途中で泳ぐのをやめ、元エマのビート板につかまる。「言いたいことがあるんだ。君の日記のこと。ホントに悪かったと思ってる。僕はバカだった。考えれば考えるほど、大バカだったと思う」(3枚目の写真)「大バカ野郎って呼んでいいよ」。元エマは、「私も告白することがあるの。私、あなたのスケッチブック見たわ」。「それで、気に入った?」。「すごいと思ったわ」。
  
  
  

そして、いよいよ選手権大会が始まる〔残り時間30分〕。隣のコースの悪女ミシェルは、「やあ、ミッキー」と呼びかけてくる。「ミッキー? 私はエマよ」。「警告しておくわ、ミッキー。命が惜しかったら、私の邪魔をしないことね」。早朝練習では、スタートの練習はしていなかったので、元ミッキーは、どうやって飛び込むのか分からない(1枚目の写真、矢印は1人スタート台に残った元ミッキー)。お陰で、スタートで随分、差がついてしまった。しかし、25メートルプールなので4回ターンするうちに、どんどん差が詰まっていく。元エマも、可能性ありとみて、声援を送る(2枚目の写真)。結果は、0.01秒の僅差で元ミッキーがミシェルをやっつけた(3枚目の写真)。
  
  
  

自分のことしか考えないホップ・コーチは、「ライプツィヒに行くぞ! オリンピックだ!」と大喜び。一方、負けたミシェルは、審判に、「エマは失格にしないと」と言う。「なぜかね?」。「彼女、本人じゃないんです。別の体に入ってるんです。今、彼女の体には、ミッキーがいるんです。自分で泳いでないんです」。「君は、どうかしてるんじゃないか?」。「彼女は、魔法使いの助けを借りて勝ったんです」。「魔法使いだと。この子は錯乱してる。連れ出してくれ」。ミシェルは、暴れながら排除される(1枚目の写真)。一方、元エマは、「サイコーの試合だったね」と称賛して、元ミッキーをプールから引っ張り上げる。ホップ:「よくやった、エマ。スタートはひどかったが、ライプツィヒで鍛えればいい」。元ミッキーは、「私ね、ホップさん…」と言いかけ、後は、元エマが引き取る。「ふさわしいタイミングじゃないけど、私は、つまり、エマは… 彼女はね、もうライプツィヒに行きたくないの」(2枚目の写真)。「何だって?」。「ライプツィヒなんかじゃなく、ここにいたいの。お友達と一緒に」。「ちょっと待て。もしエマがライプツィヒに行かないと、俺は、そこのコーチになれない」。元ミッキー:「ライプツィヒはなし。最終決定だよ」。「何だと、何様のつもりだ。俺のキャリアを潰すつもりか?!」〔ホップが本性をあらわす〕。ここで、母が口を挟む。「あなたのキャリア?」。「エマのキャリアのことです」。元エマは、「もっとずっと前に、やるべきだった」と言い、コーチをプールに突き落とす。そこに、フィアオーガがタルトフと一緒にやって来て、「もう行かないと」と声をかける。元ミッキーは、表彰台に置いてあった金メダルを手に取ると(3枚目の写真、矢印)、「悪いけど、時間がない」と言って走り出す〔残り時間15分〕
  
  
  

4人は、廃工場にあるフィアオーガの隠れ家に着く。タルトフは2人を並べて横にならせる。この時点で 残り僅か2分。「月の魔法の入れ替わり、他の者になれ〔sei ein anderer〕!」(1枚目の写真)「自分自身に戻れ〔Seid wieder ihr selbst〕!」。そして、元エマを指し、「エマに〔Sei Emma〕!」。元ミッキーを指し、「ミッキーに〔Sei Mickey〕!」と命じる。2人は気を失い、白い亡霊のようなものが出てきて、入れ替わる。その間、フィアオーガの首にかけた、3つのメダルが光を放っている。2人が目が覚めるまでの間、タルトフはフィアオーガの隠れ家に置いてある色々なものを見て、彼こそ後継者に間違いないと確信する。そして、「わしは君のような人物が現れるのを、長い間探してきた。君に尋ねたい。タルトフ一族の次の魔法使いを引き受けてもらえるかと」。フィアオーガは断るが、タルトフは、コートと魔法の本とカメのメセス・ファウリとフィアオーガの “心の声” があればやっていけると説得し、フィアオーガを優しく抱いて(3枚目の写真)、「月の魔法の高貴なる後継者。深き眠りのあと、魔術師として目覚めよ〔Magia lunaris royal suxessoraf. Erwache als Zauberer nach einem tiefen Schlaf〕!」と唱える。タルトフは、後継者ができたことで消滅する。
  
  
  

2人は、ほぼ同時に目を覚ます。ベッドの脇では、フィアオーガが魔法の本の上にカメを置き、大切そうに撫でている(1枚目の写真、矢印はカメ)。エマ:「それ、何?」。フィアオーガ:「打ち明けることがあるんだ」。彼が何を打ち明けたのかは分からない。場面は、エマのアパートに替わる。エマのベッドには、母が一緒に横になり、今日の出来事について話し合っている(2枚目の写真)。会話の要点は、①エマが水泳を頑張っていたのは、母がオリンピックに対して持っていた夢を果たすため。②母は、「それは私の夢で、あなたのじゃない」と言い、エマを解放する、という内容。一方、ミッキーの父の元には画廊からバイヤーが訪れている。父が10年間描いてきた巨大な抽象画にはピンとこないが、中に、ミッキーがしのばせておいた小さな肖像画を気に入る(3枚目の写真)。父には、それを描いた覚えはなかったが、言いそびれているうちに、画商は全部の絵を買ってくれた。ミッキーは嬉しそうにそれを見ている(4枚目の写真)。画商が帰った後、我に返った父は、喜ぶ妻に、「俺は、いったい誰の絵を売ったんだろう?」と声をかける。ミッキーは、「パパの絵は好きなんだけど、僕は肖像画が好きなんだ。怒らないでね」と言う〔これで、“売れる絵” を描いたのがミッキーだと分かる〕。授業が始まり、いつものように教師がミッキーを虐めていると、カメが囁き、フィアオーガは教師に魔法をかけて11歳に戻してしまう。
  
  
  
  

映画のラストは、オープニングと同じ、森の中での “中世の騎士ごっこ”。前と違うのは、ミッキーがエマの敵の暗黒卿ではなく、エマの味方になっていること。そして、エマは、「われ ここに、汝 ミカエロスを、わが軍の指揮官に任ず」と騎士に任じ(1枚目の写真)、キスまでする(2枚目の写真)〔2人は恋人同士?〕
  
  

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